民泊の価値を地域の中でどう生かすか──これからの制度設計を考える

■ 民泊を「街の細胞」として捉え直す

ーー今後、民泊は地域の中でどのように位置づけていくべきでしょうか。また、その価値を地域の中で生かしていくには、どのような視点が重要になるのでしょうか。民泊は、一つの施設だけで完結するのではなく、地域の人、商店、文化、空き家活用などとつながることで、はじめて地域にとっての価値を持つようになります。つまり、民泊を泊まる場所や施設としてではなく、街の中で機能する一つの「細胞」として捉え直す必要があります。細胞には新陳代謝があり、適切に入れ替わりながら全体として機能しますが、民泊も同じように、地域の中で役割を持ち、地域と関係を持ちながら循環することで価値を生み出します。例えば、学生とともに地域文化や海外の文化を共有できる場となる民泊や、お祭りなど地域のイベントに参画する民泊、地域課題の解決につながるような関係性を持つ民泊などが考えられます。街全体に民泊を分散させつつ、地域との関わりの中で機能することで、民泊の価値は大きくなります。一方で、特定の場所に集中し、地域との関係を持たないまま増殖すれば、民泊は地域に負担をもたらす存在にもなります。地域との関わりを断ち、管理が不十分な状態により、住民が不満を募らせ、やがて地域の暮らしそのものが損なわれていく。それは「機能する細胞」ではなくなってしまいます。民泊は「多いか少ないか」で評価するのではなく、地域にどう配置され、どう循環しているかで評価すべきでしょう。
インフォグラフィックが、健全な民泊の条件と地域に負担をもたらす民泊の問題点を箇条書きで対比して説明している。
ーー民泊を地域の中で機能する存在として捉えたとき、地域との共生につながっている事例にはどのようなものがありますか。民泊を地域とつながる存在として機能させる例として、空き家や空き店舗を活用し、街全体を一つの宿泊体験として捉える東大阪市の「SEKAI HOTEL」があります。これは、一つの建物にすべての機能を詰め込むのではなく、受付、食事、入浴などの機能を街の中に分散させ、それらをつなぐことで一つの滞在体験を構成する考え方です。例えば、一部の空き家にフロント機能を持たせ、食事は商店街で、お風呂は銭湯で担うといったかたちです。このほか、民泊が地域との共生につながっている好例として、奈良県吉野町の「吉野杉の家」(※2)があります。「吉野杉の家」では、地域住民が交代でホストを務め、宿泊者と直接交流する運営が行われています。注目したいのは、地域の木材関係者31名が「コミュニティホスト」として参画し、収益を地域に還元する仕組みが整えられている点です。これは単なる経済循環に留まらず、地域の伝統や文化を守り、次世代へと受け継ぐ機会にもつながっています。
木の温もりある大阪の民泊施設の一室で、長い木製テーブルに茶器セットが並ぶ明るい空間。
Group of travelers eating and talking around a long table inside a warm, wood-paneled Osaka lodging.
また、若者の移住や就労のきっかけを生むとともに、海外からの旅行者と地域をつなぐ役割も担っています。人と人の直接的な関わりを通じて、来訪者はその土地の文化や暮らしを深く理解し、地域側も一体となってゲストを迎える体制が形成されています。こうした仕組みでは、空き家や空き店舗が単体では持ちにくい価値を、地域全体の連携によって生み出すことができます。民泊を、街の中に血流を巡らせ細胞同士をつなぎ、活性化させる存在として活用した、共生の具体例だといえるでしょう。※2 吉野杉の家:Airbnbと奈良県吉野郡吉野町が2017年3月にオープンした世界初のコミュニティハウス。建築と文化の共有を通し、地域の活性化を目指すために生まれた。(「Airbnb、日本の伝統を形にした「吉野杉の家」オープン」)

■ 民泊を地域課題の解決資源として位置づける

ーー民泊は、宿泊の場にとどまらず、地域にとってどのような価値を持ち得るのでしょうか。民泊は単なる宿泊手段ではなく、地域課題の解決資源として存在できます。例えば、空き家の活用や地域経済の活性化に加え、災害時の受け入れ先としての役割も考えられます。民泊の特徴は、用途を一つに固定せず、時期や地域の状況に応じて役割を変えられる点にあります。ここで重要になるのが「時間のデザイン」という考え方です。民泊を「その時点での用途」に固定するのではなく、時間の経過や社会状況の変化も見据えて「どのように使われていくか」という視点で設計することを指します。例えば、平時には観光客や出張者の宿泊拠点として地域に人の流れと消費を生み出し、地域イベントや住民との交流の場として機能します。また、使われていない空き家をいきなり売却・解体するのではなく、まずは民泊として活用しながら地域の需要を見極めるという運用も可能です。利用状況を見ながら、将来的にシェアハウスや店舗、福祉施設など別の用途への転換も検討できるでしょう。さらに、有事や社会変動時には、避難者や帰宅困難者の一時的な受け入れ先として機能することも想定されます。実例もあり、例えば2024年に発生した能登半島地震では、Airbnbが石川県と連携し、民泊施設を「二次避難所」として提供する取り組みが行われました。被災者と宿泊先のマッチングが行われ、一定期間、無償で滞在できる仕組みが整えられています。※参考「令和6年能登半島地震の被災者に対する民泊施設提供の協力
図解「時間のデザインで考える民泊」。平時・有事/社会変動時・移行期の三つの役割と活用法を矢印で循環させて示す。
このように、民泊は単なる宿泊インフラにとどまらず、災害時における分散型の受け皿としても機能し得ます。地域内にこうした柔軟な受け皿が存在することは、避難所や行政への負担を分散し、地域の安全性を高める点でも重要な意味を持ちます。「時間のデザイン」という視点に立つと、民泊は単なる私的資産ではなく、地域の中で活用される「公共性のある資源」として捉え直すことができます。個人の権利だけではなく、制度や地域を通じて公共的価値をどう創出していくかが重要になるでしょう。

■ 地域との共生を前提とした制度設計

ーー民泊の価値を生かしていくためには、どのような制度設計が必要になるのでしょうか。民泊の価値を生かすためには、地域との関係づくりを制度の前提に組み込むことが考えられます。民泊を単なる宿泊の箱としてではなく、地域の中で機能する存在として捉えるなら、地域との接点を持ち、関係を築ける仕組みを設計することで、民泊は更に価値を生む存在になり得ます。現在、大阪府市では環境衛生系の部局が主に担当していますが、民泊は本来、住環境や地域コミュニティ、さらには福祉的な課題とも関わるものです。そのため、環境衛生の枠組みでだけでなく、住宅政策、地域政策、福祉政策とも連動させて考える必要があります。地域の関係づくりという点では、民泊に対して地域の理解が十分に得られず、敬遠されることも少なくありません。だからこそ、民泊の可能性や面白さを含め、その価値を見える化していくことが重要です。例えば、管理状況や近隣との関係性、地域活動への関与、商店街や文化活動との連携などを評価軸として整えることが挙げられます。こうした点を制度の中に組み込めば、地域と良い関係を築いている民泊が正当に評価されやすくなります。また、制度としても、営業の可否を判断するだけではなく、地域との関係をどう築き、どう維持していくのかまで含めて考えることが必要です。問われているのは、「使うか、使わないか」ではなく、「どう使い、どう地域との関係を残すか」だといえるでしょう。
近畿大学建築学部建築学科 准教授 
寺川政司氏

民泊の価値を変えるのは「地域資源」という視点

ーー最後に、大阪市における特区民泊の拡大と新規受付終了を踏まえ、今後の民泊のあり方をどのように考えるべきでしょうか。大阪における特区民泊の拡大と新規受付終了は、単なる「増やすか、止めるか」という問題ではなく、「民泊を地域社会の中でどのように位置づけるか」という問いを浮き彫りにしています。本質は、規制を強めること自体ではなく、制度を現実に機能する形で設計することにあります。あわせて、民泊が地域とどのような関係を築くのかを、制度の中で考えていくことが求められます。民泊は、個人が持つ不動産の活用にとどまらず、地域の中で生かせる資源として捉えることもできます。平時には宿泊や交流の拠点となり、災害時や緊急時には一時的な受け入れ先となるなど、役割を変えながら地域に貢献する可能性を持っています。こうした可能性を実際の価値につなげるには、民泊が地域にどのような役割を果たしているのかを見える形で示し、地域の理解や評価を得ていくことが欠かせません。制度を整えるだけでなく、地域との関係が続いていく仕組みまでつくることが求められます。民泊を地域にとって負担となる存在にするのか、それとも価値を生み出す存在にするのか。その分かれ目は、「民泊をどう使い、地域とどう関係を築いていくか」という設計にかかっているといえるでしょう。
※本記事は専門家へのインタビューを基に構成したものであり、Airbnb Japanとして特定の政策へ賛否を表明するものではありません。
近畿大学建築学部建築学科 准教授 寺川政司氏

近畿大学建築学部建築学科 准教授 寺川政司氏

ハウジング、まちづくり、都市・地域計画を専門とし、居場所づくりを通じた地域価値の再発見に関する研究を進めている。あわせて、新たな住まいのあり方の構築やリノベーション事業、コミュニティデザインを通じた持続可能なまちづくりについて、実践的に取り組んでいる。

Airbnb Japan 公共政策の取り組み

A person seated on a green couch holding a pair of red and black keys, with another person standing nearby wearing black pants and white sneakers on a hardwood floor.

テクノロジーと厳格なルールで守る安全

法令順守はもちろん、予約スクリーニングや予約を行う全ユーザーの本人確認、24時間対応のサポート体制を通じ、地域社会の平穏と安全を最優先に守ります。
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ホストが自宅の玄関先で訪問者と握手し、Airbnb Japanの公共政策の取り組みを象徴している場面

平時から備える有事の際の社会的なセーフティネット

自治体と連携協定を締結し、大規模災害発生時に被災者や支援者へ一時的な避難先を提供するプログラムを展開。平時から緊急時に備えた協力体制を構築しています。
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japanese host

官民連携による市場の適正化

業界団体と連携し「統合型管理システム」の導入や実効性のある法執行を提言。ルールを守る適正な事業者が評価され、違反行為が起こりにくい仕組みを整えることで、公平で透明性の高い市場環境の実現を目指しています。
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japanese house

空き家活用と分散型観光の推進

地方の空き家や古民家を宿泊施設として活用し、都市部から地方への人の流れを創出。Airbnbのプラットフォームを活用することで観光の恩恵を全国に行き渡らせ、地域経済に直接的な潤いをもたらします。
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